VVVF名鑑

南海電鉄

傾向と対策

 南海は東急車輛との長年の付き合いがあった影響で、通勤型車両では古くからステンレス車が導入されていました。そのため、関西私鉄の中でもVVVF車のコイル録音が比較的しやすい方になります。一方、路線長が長く、日中の列車本数もそれほど多くはないため、全種類のVVVF音を集めるハードルは高くなっています。特に、1本しかいない1051Fが録音するうえでハードルが高いです。

2000系

最終更新日:2022.12.31

 1990年に、新世代のズームカーとして登場しました。当初は必要最小限の製造が予定されていたものの、最終的には先代の21001系・22001系と同数の64両が造られました。晴れて山岳区間への直通列車の主力として活躍するようになったのも束の間、2005年に橋本での系統分離が基本となったため大量の余剰車が発生することになりました。余剰車はしばらく休車となっていましたが、その後南海本線の普通車に転用されました。現在は高野線で44両、南海本線で20両が運用されています。

音声ファイル

解析画面

加速
減速
VVVF VF-HR125/VFG-HR1810A(1C8M)
日立2レベルGTO(DC1500V・4極IM用)
登場時期 1990年
パターン H2G-2 加速時:非同期-45P-27P-15P-9P-5P-3P-1P
減速時:1P-3P-5P-9P-15P-27P(-45P、まれに)
収録のしやすさ タイプ: 標準
範囲: ★★★
音質: ★★★

 2000系のVVVF音です。パルスモードのパターンこそ典型的な日立GTO初期型そのものですが、VVVF領域終端がこのファイルの場合、加速時はインバータ周波数約34Hz、減速時は約45Hzと低めに設定されています。おまけに3パルスが占める割合がその中でも高くなっているため、他のパルスモードはそれよりも低いインバータ周波数の中での切替えを余儀なくされ、全体的に低音の目立つ変調に仕上げられています。詳細な理由は察することしかできませんが、山岳区間での運用を想定した結果このような設定となったのでしょう。なお、減速時の45パルスは運が良ければ(?)出現するようです。

1000系

最終更新日:2022.12.31

 1992年に、南海本線・高野線双方で使用できる車両として登場し、実際に両路線間での転配属が現在に至るまで何度も行われています。車体はステンレスであるものの当時としては珍しく塗装が施され、機器については2000系に引き続きGTO-VVVFが採用されました。ただし、本系列は一般的な通勤車であるため、1C8M・オールM構成から1C4M・MT比1:1へと変更されています。2001年登場の1051Fでは無塗装車体となり、足回りもIGBT-VVVFとなりました。1051Fは2018年からは高野線で運用されています。
 2017年から更新工事が行われた車両が登場していますが、50000系と違いGTO→IGBT化は行われていないため、しばらく現行の足回りは安泰と思われます。

GTO車

音声ファイル

解析画面

加速
減速
VVVF VFG-HR1420F(1C4M)
日立2レベルGTO(DC1500V・4極IM用)
登場時期 1992年
パターン H2G-4 加速時:非同期-15P-11P-7P-3P-広域3P-1P
減速時:1P-広域3P-3P-7P-11P-15P-21P
収録のしやすさ タイプ: 標準
範囲: ★★★
音質: ★★★

 GTO車のVVVF音です。パターンは一般的な日立GTO後期型のものとなっていますが、加速時の非同期→15パルスの切替タイミングが他の車種(インバータ周波数24~25Hz近辺が多い)と比べると早く、このファイルの場合約16Hzとなっています。それでも、東急8799号車や相鉄8000系等の過渡期形と比べると数Hz遅いタイミングではあります。一方の減速時は加速時ほど特徴的ではないですが、各パルスモードともやや低いインバータ周波数から下降し、派手になり過ぎずに音がくっきりと切り替わっている印象です。

IGBT車(1051F)

音声ファイル

解析画面

加速
減速
VVVF VFI-HR1420G(1C4M)
日立2レベルIGBT(DC1500V・4極IM用)
登場時期 2001年
パターン H2I-2 非同期-広域3P-1P
収録のしやすさ タイプ: 標準
範囲: ★★★
音質: ★★★

 2001年登場の1051FのVVVF音です。日立の全電気ブレーキが採用された最初の車両であり、停止直前に非同期変調のキャリア周波数が200Hzに切り替わります。その他の部分はこの当時の標準的な日立2レベルIGBTの挙動そのものですが、非同期変調の一定部のキャリア周波数が900Hzとなっているのはこの車種が唯一であり、独特に感じられます。

2300系

最終更新日:2022.12.31

 2004年に、高野線の山岳区間用に2連4本が登場しました。先に登場した2000系と共通点は多いものの、高野山をアピールするため赤を基調とした外観となり、室内もクロスシートが採用されました。また、主回路を1C2M4群構成とすることで冗長性を確保し、2連単独での使用も可能となっています。登場時は難波乗り入れもあったものの、現在は多客時を除き橋本以南で専ら使用されています。

音声ファイル(加速)

解析画面

加速

音声ファイル(減速)

解析画面

減速
VVVF RG689A-M(1C4M2群)
東洋2レベルIGBT(DC1500V・4極IM用)
登場時期 2004年
パターン 非同期-15P-9P-1P
収録のしやすさ タイプ: 標準
範囲: ★★★
音質: ★★★

 2300系のVVVF音です。東洋2レベルIGBTですが、同社の標準的なパターンとは異なり非同期変調と9パルスの間に15パルスが挟まっていて、その分非同期が短くなっていることが特徴的ですね。同様のパターンはシーサイドライン2000形や、ダラスの近車製LRVでも聴くことができますが、それぞれ違いはあります。南海2300系の場合、9パルスモードについて加速時は過変調部(パルス数が5となる箇所)しか現れないものの、減速時はさらに変調率が下がりパルスが9個しっかり現れてから15パルスへと切り替わります。
 収録は上り(下山)列車で行いましたが、0km/h~1パルス部まで途切れずに収録できたのは紀伊清水発着時のみでした。これは、山岳区間は全駅が交換駅となっていて、分岐器通過速度が低い駅がほとんどであったためです。

8000系

最終更新日:2022.12.31

 8000系は2008年に登場しました。車体は当時の東急車輛の標準仕様が色濃く反映されたため、関西にしては珍しい、いわゆる「走ルンです」の構造が用いられました。一方で足回りは先に登場した泉北7020系に準じたものとなりましたが、主電動機や歯車比などは南海の独自仕様となりました。これらは後の12000系にも同様のものが反映されています。また、VVVFのPWM制御の設定に関しても(非同期変調のキャリア周波数、パルスモードの設定等)、8300系の登場までは自社の多くの車種に継承されました。

音声ファイル

解析画面

加速
減速
VVVF VFI-HR1420Q(1C4M)
日立2レベルIGBT(DC1500V・4極IM用)
登場時期 2008年
パターン H2I-3 非同期-9P-広域3P-1P
収録のしやすさ タイプ: 標準
範囲: ★★
音質: ★★★

 2008年登場の日立2レベルIGBTということで、この時期の同社製らしく同期変調に移行する前に非同期変調の急上昇はなく、代わりに9パルスモードが使用されています。ただし、どういうわけか同じくこの頃からの同社製によくみられるランダム変調は用いられておらず、720Hzの澄んだ音となっています。これらの特徴は前年登場の泉北7020系や、後に登場する12000系・6200系更新車(50番台含む)・50000系更新車と共通しています。ただし、8000系においては同時期登場のJR北海道車のように9P→広域3Pの切替時に変調率が滑らかに変化しないようです。また、登場時は停止間際のキャリア周波数が500Hz付近(東京メトロ6000/7000系に近い周波数)だったようです。現在は他車同様一般的な200Hzに揃えられましたが、切替後も720Hzの成分が一瞬だけ混ざるため、どこか歯切れの悪い音になっていますね。

6200系(0番台・50番台)

最終更新日:2022.12.31

 南海6200系は1974年に6000系・6100系のマイナーチェンジ車として登場しました。4連・6連が製造され、抵抗制御のまま走り続けていましたが、2009年に単独運用が多くなった4連の冗長性を確保するため、車齢35年での機器更新が行われました。VVVFは8000系に準じたものが採用されましたが、歯車比は変更されず主電動機は8000系(三菱電機)と違って東洋電機製造の200kWのものが用いられました。4連はすべて更新されましたが、現在も6連は未更新のままです。
 6200系をベースに界磁チョッパ制御を用いて1982年に登場したのが8200系です。こちらも機器のメンテナンスが困難になったため2013年に更新され、6200系50番台への改番も行われました。8200系は6連のみであり、更新の際は4M2T→3M3Tに変更されています。更新の際に採用された機器によって6200系とほぼ同等の性能になったため、編入が行われたものと思われます。

0番台

音声ファイル

解析画面

加速
減速
VVVF VFI-HR1420U(1C4M)
日立2レベルIGBT(DC1500V・4極IM用)
登場時期 2009年
パターン H2I-3 非同期-9P-広域3P-1P
収録のしやすさ タイプ: 点検蓋
範囲: ★★
音質: ★★★

 2009年に登場した6200系4連の機器更新車のVVVF音です。基本的には8000系に準じたパターンですが、こちらは9P→広域3Pの繋がりが滑らかになっています。全電気ブレーキ時のキャリア周波数は8000系同様、登場時は高い音のようでしたが、やはり12000系が登場した頃200Hzとなったようです。

50番台

音声ファイル

解析画面

加速
減速
VVVF VFI-HR1421C(1C4M)
日立2レベルIGBT(DC1500V・4極IM用)
登場時期 2013年
パターン H2I-3 非同期-9P-広域3P-1P
収録のしやすさ タイプ: 点検蓋
範囲: ★★★
音質: ★★★

 8200系を2013年の更新時に改番・編入して登場した50番台のVVVF音です。0番台とのパターンの違いは特になさそうですね(上の0番台の加速時のファイルでは広域3パルスの変調率が上がる際に「踊り場」のようなものがみられますが、架線電圧の変化等が原因と考えられます)。VVVFや主電動機の性能にもほとんど違いは見られませんが、型番が異なるのは種車の違いに対応させる変化があったためと思われます。

8300系

最終更新日:2022.12.31

 2015年に8000系の後継車両として登場しました。南海としては久々の近畿車輛製となり、従来通りのステンレス製ながらも車体構造に同社の特徴が表れています。主回路について、主電動機は8000系の三菱製と異なり東洋製6極IM(全閉内扇)が採用されました。編成は4連と2連があり、南海本線系統のほか2019年からは高野線でも運用されるようになっています。なお、この高野線向けからVVVFはハイブリッドSiC適用のものへと変更されています。

IGBT車

音声ファイル(加速)

解析画面

加速

音声ファイル(減速)

解析画面

減速
VVVF VFI-HR1421D(1C4M)
日立2レベルIGBT(DC1500V・6極IM用)
登場時期 2015年
パターン H2I-3 非同期-9P-広域3P-1P
収録のしやすさ タイプ: 標準
範囲: ★★★
音質: ★★★

 IGBT車のVVVF音です。パターンそのものは日立2レベルIGBTにありがちなものですが、6極モーターにしてはかなり低い領域(インバータ周波数30~40Hzくらい)で非同期変調から9パルスモードへと切り替わります。この切替タイミングは、東洋製全閉6極IMと組み合わさることの多い東洋製VVVFと近いですが、8300系の場合はあくまで日立らしく、特定のインバータ周波数で固定されることなく架線電圧等によって毎回変わります。そして、停止時はキャリア周波数が445Hzから連続的に下がります。
 登場時の動画によれば、当初非同期のキャリア周波数は今の9000系更新車と同じくらいであったようです。誘導障害対策の結果、IGBTにしては低い445Hzになったのでしょうけれども、1051Fの900Hzの半分である450Hzと比較してもややずれているのが個人的には引っかかります…。

ハイブリッドSiC車

音声ファイル(加速)

解析画面

加速

音声ファイル(減速)

解析画面

減速
VVVF 形式不明(1C4M)
日立2レベルIGBT(ハイブリッドSiC)(DC1500V・6極IM用)
登場時期 2019年
パターン H2I-3 非同期-9P-広域3P-1P
収録のしやすさ タイプ: 標準
範囲: ★★★
音質: ★★★

 2019年に高野線向けに登場した、ハイブリッドSiC車のVVVF音です。普通に聴いていても、またスペクトルを可視化しても上のIGBT車と一見差はないように見えます…が、よく見ると非同期変調のスペクトルがやや異なっているように感じられます。具体的にはキャリア周波数付近の上下に広がる線(側帯波)が、IGBT車ははっきりしているものが2本ありますが、ハイブリッドSiC車は4本あります。このことから、非同期変調についてのみPWMを変更し、同時期に登場した9000系更新車同様、線間電圧制御型のものを採用した可能性があります[1]。一応IGBT車もハイブリッドSiC車も、1車両の中での同じような位置での収録を、それぞれ複数車両で行い比較したうえでこちらの傾向を確認しております。また、音量のレベルをなるべく揃えて比較する目的で、IGBT車もハイブリッドSiC車も加速時と減速時のファイルを分けて掲載しました。

[1]https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2016/10-11/pdf/2016_10_11_05.pdfより

9000系

最終更新日:2022.12.31

 9000系は1985年に南海本線用に登場しました。高野線用の8200系をベースとし、足回りも8200系同様界磁チョッパ制御となりましたが、8200系が三菱製制御装置使用となったのに対し、9000系は日立製が採用されています。界磁チョッパ採用ながらもVVVF車との併結は可能で、現在12000系とともに「サザン」に使用されることもあります。そんな9000系も2019年から更新工事が始まり、8200系同様にVVVF化が行われました。この更新工事によって機器の冗長性が確保されることとなったため、4連単独での運用にも入るようになりました。

音声ファイル

解析画面

加速
減速
VVVF 形式不明(1C4M)
日立2レベルIGBT?(DC1500V・4極IM用)
登場時期 2019年
パターン H2I-3 非同期-9P-広域3P-1P
収録のしやすさ タイプ: 点検蓋
範囲: ★★
音質: ★★★

 9000系VVVF車の音です。相変わらずスペクトル拡散のない非同期変調や、その後に続くパルスモード等、先に更新された6200系との共通点は多いです。一方で8300系で用いられた設定も取り入れられているようで、全電気ブレーキ時のキャリア周波数が200Hz一定ではなく、同系列同様に急下降するものとなっています(この他にも、非同期のキャリア周波数は営業運転開始前の8300系と同じと思われます)。また、非同期のキャリア周波数付近の側帯波が4本とも目立つこと、より高い変調率まで使用されていることから、線間電圧制御型のPWM方式が採用されていると思われます[1]。
 この後に登場する高野線用の8300系にはハイブリッドSiCが採用されたようですが、本系列については未だにVVVFの詳細は発表されておらず、純粋なSi-IGBTなのかハイブリッドSiCなのかは不明でございます。

[1]https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2016/10-11/pdf/2016_10_11_05.pdfより